オープニング |
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Brain Grey |
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第一回記念作品 |
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天正九年(1581)九月、伊賀は信長軍による攻撃を受け、伊賀の里に住む忍者軍は壊滅状態に陥った。 |
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これを、天正伊賀の乱という。・・・しかし、伊賀忍軍は生きていた・・・ |
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これは、戦乱の中、厳しいおきてにそむき、抜忍となった三人の男達の記録である。 |
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天正十年 伊賀 |
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頭領・百地三太夫屋敷 |
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今、屋敷の中に一線の光が走って行った。 |
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三太夫 |
半蔵か。 |
半蔵 |
三太夫様、邪鬼丸・幻妖斎・小源太以上三名の抜忍、未だその消息つかめませぬ。 |
三太夫 |
そのようなたわ言、聞きとうない。早う首が見たいわ。持ってまいれ。 |
半蔵 |
申し訳ございませぬ。 |
三太夫 |
半蔵、伊賀忍のおきて、わかっておろうな。 |
半蔵 |
はっ、伊賀を抜けた者、必ずしとめましょうぞ。 |
三太夫 |
首三つ、待っておるぞ。 |
半蔵 |
いかにも。 |
三太夫 |
ふっふっ・・・伊賀を抜けるとは愚か者よ、我らが忍軍の力、見せてくれるわ。 |
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抜忍伝説 翼を持った男達 |
邪鬼丸 |
邪鬼丸 |
あやめ、待っていてくれよ。今、逢いに行くぜ。 |
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邪鬼丸の頭を、ふと思い出がよぎる・・・ |
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その少年は鞍馬山で動物の手によって育てられた。まだ赤ん坊の頃、両親に捨てられたのであろう。 |
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来る日も来る日も、熊や兎を相手に飛び回る少年は、野生児として育っていった。 |
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5才の時、一人の男が現れた。赤い顔に大きな鼻、それはまさしく天狗だった。 |
大天狗 |
小僧、わしと勝負せんか。 |
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少年は天狗に大きな暖かさを感じた。そして誘われるが如く、天狗に近付いて行った。 |
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突然、天狗の姿が消えた。 |
大天狗 |
ワハハ・・・ここじゃここじゃ。 |
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少し離れた木の上から、天狗の声がした。 |
大天狗 |
わしは鞍馬山の守り神・大天狗じゃ。早う来ぬと先に行ってしまうぞ。 |
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いつしか、少年は天狗を追って全速力で走っていた。 |
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こうして二人の奇妙な生活が始まった。天狗から言葉や体術を教わり、少年は邪鬼丸と名付けられた。 |
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ある日、その様子を木陰でじっと伺う男がいた。伊賀忍、服部半蔵である。 |
半蔵 |
何と、身軽な小僧よ。ぜひとも伊賀にほしい。 |
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その夜、半蔵は邪鬼丸を伊賀へ連れ去った。 |
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大天狗が邪鬼丸のいないことに気付いた時は、もう行方が分からなくなっていた。 |
大天狗 |
邪鬼丸・・・どこへ行ってしまったのだ・・・ |
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半蔵は邪鬼丸を伊賀に連れて来ると、一軒の民家に放り込んだ。そこには一人の男が立っていた。 |
邪鬼丸 |
こんな所に連れてきて、どうしようってんだよ! |
五右衛門 |
おう小僧、ちったあ静かにしろい。今さら騒いだってどうにもなりゃしねえんだ。 |
邪鬼丸 |
お前は誰なんだよ。 |
五右衛門 |
俺の名前は石川五右衛門、半蔵様より、お前を一人前の忍者にするため預かったのだ。 |
邪鬼丸 |
忍者になんかなりたくねえよ。山に返してくれよ。 |
五右衛門 |
残念だが、そいつはできねえ。今までのことは忘れるこったな。 |
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その日から五右衛門のもと、厳しい忍者の修行が始まった。山育ちの邪鬼丸は、教えられる術をどんどん吸収していった。 |
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そして、誰もが認める一人前の忍者となった。 |
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邪鬼丸は14才になっていた。 |
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そんな、ある夜・・・ |
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邪鬼丸が寝ていると、五右衛門が枕元に近寄ってきた。 |
五右衛門 |
邪鬼丸、起きろや。 |
邪鬼丸 |
五右衛門!どうしたんだ。 |
五右衛門 |
しっ、静かに。おめえとは、いろいろあったからな。最後の別れをいいに来たのよ。 |
邪鬼丸 |
最後の別れ? |
五右衛門 |
おうよ。今晩、俺は伊賀を抜ける。 |
邪鬼丸 |
殺されるぞ! |
五右衛門 |
俺はそんなへぼじゃねえよ。生きぬいてみせらあ。じゃあな、あばよ。 |
邪鬼丸 |
待ってくれ。なぜ抜けるんだ。 |
五右衛門 |
理由か?いやになったのよ。おめえにも分かる時が来るかもしれんがな。 |
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そして、五右衛門は二度と伊賀には帰って来なかった。 |
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数多くの追っ手が放たれたにも関わらず、五右衛門を捕らえたという話は噂すら耳にすることはなかった。 |
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しだいに五右衛門は初めて抜忍として成功した男ではないかと他の者に知れ渡っていった。そして数多くの下忍が抜忍となった。 |
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しかし、それは容易なことではなかった。 |
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誰一人として成功した者はなく、その全てが哀れな末路をたどった。 |
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一年後、伊賀の里に一人の少女が迷い込んで来た。あやめという名前以外、記憶のない美しい女性だった。 |
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そして、あやめが伊賀の女として暮らすのに、さほど時間はかからなかった。 |
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邪鬼丸に初めて平穏な日々が訪れた。 |
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あやめと一緒にいることで、邪鬼丸にとって今までにない心落ち着く安息の日々が続いた。 |
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しかし、幸せはそう長く続かなかった。 |
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あやめが、伊賀忍法帳を盗み出したのである。 |
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あやめを捕らえるため、捜索隊が組まれた。そして皮肉なことに、邪鬼丸もその一人として選ばれたのである。 |
邪鬼丸 |
あやめ、捕まらないでくれ・・・ |
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一方、あやめは、追手の一人慈念坊に襲われていた。 |
慈念坊 |
ぐふふ・・あやめ、見つけたぞ。死んでもらおう。 |
あやめ |
私は、こんな所で死ぬわけにはいかない。 |
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次の瞬間あやめが目にしたのは、胸に手裏剣を受け、絶命した慈念坊の姿であった。 |
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そして隣りには慈念坊を倒した男が立っていた。邪鬼丸である。 |
邪鬼丸 |
あやめ、もう大丈夫だ。 |
あやめ |
何故、私を助けたの。今度は貴方も追われるのよ。 |
邪鬼丸 |
あやめに手を出す奴は、俺が許さねえ。 |
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あやめは、ふところから伊賀忍法帳を取り出すと、邪鬼丸に手渡した。 |
あやめ |
邪鬼丸、これは返すわ。私は甲賀の忍者なの。甲賀に帰らなければならない。 |
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今はここで別れるけど、きっとまた会えるわよね。約束よ。 |
邪鬼丸 |
あやめ・・・ |
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その時、邪鬼丸は背後に何者かの気配を感じた。 |
邪鬼丸 |
追手だ。あやめ逃げろ! |
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何人もの追手が、二人を追ってきた。 |
追手 |
邪鬼丸、貴様裏切る気か! |
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邪鬼丸はあやめを逃がすと、追っ手の前に立ちはだかった。 |
あやめ |
邪鬼丸、私は待っているわ。死なないでね。必ず、甲賀に来てちょうだい。 |
邪鬼丸 |
心配するな。俺は、そう簡単にはくたばらねえよ。 |
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邪鬼丸は追手に向って走った。 |
邪鬼丸 |
俺は、今日を最後に伊賀を抜けるぜ。こんなもん、たたき返してやらあ!! |
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追手の一人に、伊賀忍法帳を叩きつけ、踊りかかっていった。 |
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今、邪鬼丸は抜忍となったのである。 |
幻妖斎 |
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邪鬼丸は、夜の山道を獣の如く走り抜けた。先程から、何者かがつけてきているようだ。 |
邪鬼丸 |
ちっ!追手か。 |
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邪鬼丸の足が止まった。 |
邪鬼丸 |
おい!そこの野郎、木の陰に隠れてねえで、さっさと出て来やがれ。相手になってやるぜ。 |
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幹の後ろから一人の男が姿を現した。銀色に輝く髪を持つ色白の美男子であった。 |
幻妖斎 |
邪鬼丸、何とか生きている様だな。 |
邪鬼丸 |
てめえ!幻妖斎!! |
幻妖斎 |
そんなに恐い顔をするな。おぬし敵と味方の区別もつかぬのか? |
邪鬼丸 |
なにい!? |
幻妖斎 |
訳あって、拙者も伊賀を抜けた。敵ではない。早うせぬと追手が来るぞ。 |
邪鬼丸 |
もう来てるぜ・・・囲まれちまった。 |
幻妖斎 |
ふっ、雑魚が・・・六人か、丁度よい。おぬし、右へ跳べ。私は左の敵を片付けようぞ。 |
邪鬼丸 |
俺に指図すんじゃねえよ。 |
幻妖斎 |
私は、こんな所で死ぬわけにはいかんのだ。せめて、お師匠に会うまでは・・・ |
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幻妖斎が、飯道山に住む法道仙人のもとで仙術の修行を始めたのは、まだ年端もゆかぬ子供の頃であった。 |
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ここで、幻妖斎は水術に興味を示し、水を自由に操る法を身につけた。 |
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それからも、幻妖斎は修行を怠ることなく、なお一層の修練に励んだ。 |
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そんな幻妖斎の姿を見ていた法道仙人は、ある日、凍結行の話をした。 |
法道仙人 |
のう、幻妖斎。おぬし、凍結行という術を知っておるか? |
幻妖斎 |
存じませぬ。 |
法道仙人 |
そうか、凍結行とは仙術を学んだものなら、誰もが夢見る幻の術よ。 |
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何でも、この世の全てを凍らせてしまうらしい。この術を極めし者は、未だかつて一人もおらん。 |
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おぬしなら、できるかもしれんのう、ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ・・・ |
幻妖斎 |
凍結行・・・ |
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それからの幻妖斎には、凍結行のことしか考えられなかった。 |
幻妖斎 |
私はここまで水を自由に扱える。なのに、凍らせることはできぬ。凍結行・・・ぜひ会得したいものだ。 |
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そして、数年の歳月が流れた。 |
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幻妖斎の修行を、崖の上からじっと見ている男がいた。 |
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その男は、額に刀傷のある面妖な顔をしていた。 |
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男は崖から身を躍らせると、滝の淵へと飛び込んだ。 |
穴九右衛門 |
おぬしが幻妖斎という若僧か。その修行の腕前、見せてもらおうぞ。 |
幻妖斎 |
消えろ、修行の邪魔だ。 |
穴九右衛門 |
おじけづいたか、遠慮せずかかってまいれ。 |
幻妖斎 |
口でいってもわからぬか。そこまで申すなら覚悟はできていよう。 |
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幻妖斎の目が妖しく光った。 |
幻妖斎 |
ハァッ! |
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幻妖斎の掛け声と同時に水面が沸き立ち、何本もの水柱が、穴九右衛門を襲った。 |
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しかし、穴九右衛門はあせりもせず、落ち着いた様子で静かに息を吐くと、両手を合わせ印を結んだ。 |
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するとどうであろう。時が止まってしまったかのように、水柱が凍りついてしまったのである。 |
幻妖斎 |
馬鹿な!まさか、これが・・・ |
穴九右衛門 |
これが凍結行だ。幻妖斎、凍結行を覚えたくば、伊賀に来い。 |
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わしは伊賀の中忍・穴九右衛門なるぞ。ウァーッハッハッハッ。 |
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穴九右衛門が消え去ると、術が解けたのか、水面はゆるやかに波打ち、再びもとの静けさを取り戻した。 |
幻妖斎 |
凍結行を会得した男がいたのか・・・ |
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次の日、幻妖斎は伊賀の里へ向かった。 |
幻妖斎 |
お師匠、お許しください。 |
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そして、凍結行を学ぶため、伊賀で忍術の修行に励んだ。 |
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しかし穴九右衛門は、決して凍結行を教えようとはしなかった。 |
穴九右衛門 |
忍術とは一子相伝のもの。うかつに教えることはできぬわ。 |
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しかし、幻妖斎はあきらめなかった。何年もの間、穴九右衛門をつけ狙ったのである。 |
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そして、幻妖斎が27才の時、ついにその秘密に触れる日がきた。 |
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穴九右衛門が一人の侍に凍結行を使ったのである。幻妖斎は、木の上からその様子を見ていた。 |
幻妖斎 |
見れる。凍結行が再び・・・ |
侍 |
体が・・・動かぬ。木も草も・・・一体どういうことだ。 |
穴九右衛門 |
この世の全ては凍りついた。もう逃げられぬ。 |
幻妖斎 |
馬鹿な・・・!木も草も動いているではないか。 |
穴九右衛門 |
覚悟! |
侍 |
た・・・助けてくれ・・・ |
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ぐあっ! |
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幻妖斎はいてもたってもいられなくなり、枝から飛び降りた。 |
幻妖斎 |
穴九右衛門、これが凍結行だというのか。 |
穴九右衛門 |
貴様、見ておったのか。 |
幻妖斎 |
私の見たものは何も凍っていなかった。これでは、単なる妖しの催眠術にしかすぎぬではないか。 |
穴九右衛門 |
そうよ、それがどうした。いつぞやのお前と同じように、あの侍にも催眠術をかけたのよ。 |
幻妖斎 |
だましたな!だましおったな!穴九右衛門。 |
穴九右衛門 |
凍結行なぞ、この世にない。所詮ただの催眠術よ。貴様も、もう立派な伊賀忍。 |
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馬鹿なことは忘れて、命をかけて三太夫様のために働けばよいのだ。 |
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幻妖斎は全てを悟った自分の仙術がほしいために、今まで伊賀にだまされていたこと。 |
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偽りの凍結行を餌に、好きなように操られていたこと。 |
幻妖斎 |
私が馬鹿だった・・・ |
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幻妖斎、今をもって抜忍となる。もう、おぬしらのいいなりにはならぬ。私は、凍結行を学ぶのだ。 |
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一陣の風が幻妖斎を包み込むと、そこにはもう幻妖斎の姿はなかった。 |
穴九右衛門 |
貴様、伊賀のおきてを忘れたのか。抜けは死ぞ。凍結行なぞ見つかるわけがないわ! |
幻妖斎 |
お師匠、待っていて下さい。こんな私でもまだ資格があるのなら、ぜひとも凍結行を手に入れたいのです。 |
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こうして、幻妖斎は走った。法道仙人と過ごした飯道山を目指して・・・ |
小源太 |
幻妖斎 |
邪鬼丸、こっちは片付いたぞ。 |
邪鬼丸 |
おめえ、いちいちうるせえぞ。こっちは、とっくに始末してんだ。 |
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その時、木陰から叫び声が上がったかと思うと、一人の男が倒れてきた。そして、その後ろには一つの影が立っていた。 |
小源太 |
まだ一匹おったぞ。油断するな、先は長い。 |
幻妖斎 |
小源太ではないか! |
小源太 |
おぬしら、伊賀を抜けるのは並大抵のことではない。気を抜くんじゃないぞ。 |
邪鬼丸 |
畜生!俺達の後をつけてやがったな。いくらあんたといえど、場合によっちゃあ相手になるぜ。 |
幻妖斎 |
やめろ、邪鬼丸。追手ではなさそうだ・・・ん?その目どうしたのだ。 |
小源太 |
・・・わけあって、拙者も伊賀を抜けた。おぬしらと同じだ・・・ |
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小源太は伊賀生まれの伊賀育ち。沈着冷静な性格と、ずば抜けた行動力が手伝って、天才的な忍者であった。 |
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しかし、彼の特徴は何といっても全ての毒物を中和させてしまう、特異体質であろう。 |
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小源太は、10才を過ぎてから二十年以上、地雷也という男と組んでいた。 |
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その男の性格は、大らかで大胆不敵。小源太より二つ年上で、火薬を扱わせたら、右に出るものはいなかった。 |
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この2人は、まるで実の兄弟以上に中がよく、仲間からも一目おかれていた。 |
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下忍の中でも、信頼されるリーダー格だったといえよう。 |
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ある日、任務遂行中に、謎の忍軍に襲われた。 |
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普段、うまく敵方の裏を読む二人であったが、今回ばかりは、今までのようにいかなかった。 |
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しかし、いくら雑魚が群がってきても、この二人の相手ではなかった。 |
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任務を終えた帰路の途中、地雷也が口走った。 |
地雷也 |
俺達の手の内、ばればれじゃねえか。 |
小源太 |
うむ・・・急ごうまだ敵がいるかもしれん。 |
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と、その時天空より声がした。 |
段蔵 |
俺の名は加当段蔵。そこの二人、命はもらったぞ。 |
小源太 |
なんと!! |
地雷也 |
あの野郎、空を飛んでやがる。 |
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段蔵が二人をめがけて急降下してきた。 |
段蔵 |
死ぬがよい。 |
地雷也 |
なめんじゃねえぞ。 |
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二つの刃が激しくぶつかりあった。 |
段蔵 |
ちっ! |
小源太 |
地雷也、こやつ、できるぞ。 |
地雷也 |
よっしゃ!火車の術を使おう。 |
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地雷也は、あたりをぐるぐると回り始め、腰につけたひょうたんから火薬をまき散らした。 |
地雷也 |
勝負だ、段蔵! |
段蔵 |
はっ!貴様の術などお見通しよ。 |
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くらえ! |
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段蔵は炎で真赤に燃えさかる手裏剣を投げつけた。 |
小源太 |
地雷也、よけるんだ! |
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しかし、小源太の声は届かなかった。次の瞬間、大爆発がおきたのである。凄まじい閃光があたりに広がった。 |
段蔵 |
ぐぬうっ、目が見えぬ。そこの男、この場は命を預けておく。ありがたく思え! |
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段蔵は煙の後方へと消えていった。 |
小源太 |
地雷也・・・ |
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地雷也が自分の術で死ぬなんて・・・ |
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爆風の静まった草原には、小源太一人が取り残されていた。 |
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伊賀の里へ一人戻ってきた小源太は、地雷也の死を三太夫に報告した。 |
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そして、最愛の友を失った小源太は、仇を取るべく三太夫へ申し出た。 |
小源太 |
加当段蔵なる男、ぜひとも討たせて下さいませ。 |
三太夫 |
たかが、下忍一匹死んだぐらいで騒ぐでない。かくなる言動。おぬし何様のつもりか! |
小源太 |
しかし、三太夫様。私はぜひとも地雷也の仇を・・・ |
三太夫 |
黙れ、無礼者!! |
小源太 |
ぐわあっ!! |
三太夫 |
ふっ、下忍は下忍らしくしておればよいのだ。 |
小源太 |
三太夫、貴様の考えよくわかった。今まで貴様の為に働いていたかと思うと、つくづく自分が嫌になるわ。 |
三太夫 |
ならば、死ぬがよい。 |
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暗闇から飛んできた無数の矢が、小源太の全身をつらぬいた。 |
三太夫 |
早う、死体を片付けい。 |
下忍 |
お頭、これは! |
三太夫 |
うぬっ、変り身の術か。早く追え、まだ遠くへは行っていまい。 |
小源太 |
待っておれよ、加当段蔵。必ずや、地雷也の仇はらしてくれようぞ。 |
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小源太の体は闇の中へと溶けていった。友の仇を討つ為に、彼もまた抜忍の道を選んだのである。 |
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小さな小屋の中で、三人がたき火を囲んで座っている。 |
小源太 |
どうやら追手はまいたようだな。 |
幻妖斎 |
しかも、こんな小屋まで見つかって運がよかった。 |
邪鬼丸 |
そんじゃ、俺は先に行くぜ。あんたらも元気でな。 |
小源太 |
まあ待て、邪鬼丸よ。伊賀の力はこんなものではない。今ごろは各地の忍軍にも話が伝わっている筈だ。 |
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全力を挙げてでもわしらを消すつもりだろう。おぬし一人で、逃げられると思うか? |
幻妖斎 |
おぬし仲間はいるのか? |
邪鬼丸 |
・・・そんなもんいねえよ。 |
小源太 |
拙者も、頼る所なぞない。回りは敵だらけだ。もし信じられるとしたら、おぬしら二人だけだろう。 |
邪鬼丸 |
何がいいてえんだよ。 |
小源太 |
こうして、三人が抜けたのも何かの縁。各々の目的は違えども、助け合っていく気はないか? |
幻妖斎 |
一人より三人か・・・賛成だな。 |
邪鬼丸 |
俺も・・・あんたらなら信じられる様な気がする。 |
小源太 |
よし、決まったな。だが今は一緒にいると見つかりやすい。一旦、別れ、この小屋を連絡場所に使うのはどうだろう。 |
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隠れ家にもよさそうだしな。 |
幻妖斎 |
よし、今日より10日毎にここで落ち合おう。それでよいか? |
邪鬼丸 |
わかった。生きている限り、ここに来よう。 |
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三人は、各々の思いを胸に秘め、立ち上がった。 |
小源太 |
我々は仲間だ。ともに生きよう。 |
幻妖斎 |
命ある限り・・・ |
邪鬼丸 |
お互いを信じて・・・ |
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そして三人の姿は小屋から消えた。 |
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今、翼を持った男達の伝説が始まろうとしている・・・ |
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リターンキーを押すと最初に戻ります。 |
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ディスクを抜いて、電源を落として下さい。 |
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